そんなわけで最近は雪山通いしていたのだが


新テーマの第一作。

撮影のためには、まず撮影現場にたどり着くことが最初の課題だった。
撮影場所は兵庫県北部蘇武岳山系の豊岡市日高、大杉山(標高1006m)。
いくつかの登山道が整備されている蘇武岳への縦走ルートにあるわりに、あまり人気がないのだが、人気がないゆえに騒々しい登山者が少なく、撮影を主目的とするトレッキングには適している。

以前先輩からスノーモービルの日本選手権シリーズの撮影に誘われたけど「ゼニにならない上に寒いからイヤです」と即答で断ったくせに、完全インディペンデント制作の本件で常温が0度前後の世界に足を踏み込んでみると、コレが最高に面白い。
山歩きはエンデューロの撮影でそれなりの経験があるし、昨秋から現場の大杉山には何度も登っているので土地勘は出来上がっていたけど、雪が積もったら全く別世界だった。

近隣はスキー場だらけで山頂の標高1006mの大杉山-蘇武岳の万場口登山道は、谷筋から尾根筋に続くほぼ一本道の単純な道なので木や岩を目印に大体のルートは覚えていたけど、積雪50cmを超えると人が踏みならした痕跡が無くなるだけでなく、地形そのものが変わり、尾根筋を真っ直ぐ登るときはもちろん、トラバース(斜面を横切ること)でも山側の積雪が更に深くなるので、自ら道を作っていくラッセルの技術と体力と根性、そして引き際の判断力と決断力が試される”漢の遊び”だ。

もちろん安全最優先なので雪山ならではの装備も必須で、防水防寒着、雪に埋まらないためのスノーシュー、スノーブーツ、ブーツ内への雪の侵入を防ぐゲーター、胸の高さを超えるラッセルで雪を掘る時にスコップ代わりにもなるミトンのグローブカバー、落枝や滑落転倒に備えてヘルメット、そして吹雪いても視界を確保して道を見極めるためのゴーグルなど、かなりの出費になったが、大げさでなく目的を果たして生きて帰ってくるためには不可欠なものばかりだから仕方がない。

肝心の撮影機材は

-Canon EOS 60D + Magic Lantern
-Tokina AT-X 17-35 F4 PRO FX
-SIGMA APO 70-300mm F4-5.6 DG MACRO
-SIGMA APO 50-500mm F4.5-6.3 DG OS HSM
-SONY AS100V
-Contour Contour+2

これらを常用するためパッキングには工夫が必要だった。
当初はボディにTokinaを付けた状態でネオプレーンのカバーを付けただけで、いつでもカメラを構えられるように直接首から下げていたが、ラッセルや降雪による水濡れが予想以上に多く、Lowepro トップローダープロ 70AW 2 で体の前面左側に固定、前面右側にはバッテリー、ブロワー、クロス、SDカードメディア、Sony AS100Vなど即応が必要な物をLoweproのSFシステムを組み合わせて収納装着して、バックパックを降ろさなくてもすぐに撮影できる体制をとった。

三脚とクレーンジブを加えた撮影機材と安全装備の総重量は20kg弱。
雪のない普通のトレッキングルートでは大したことはないが、不安定な雪上では体力の消耗が激しく、なかなか思うようにペースが上がらないので、高度を上げることよりも収録対象を「よく見ること」に重点を置いた。

2014/12-2015/3の間に13回入山した一番の成果は雪氷昆虫の存在を知ったことかもしれない。
雪氷昆虫とは厳冬期の雪上でしか見られない昆虫類を指し、彼らにとっては人の体温ですら超高温であるため手で触れることは厳禁。
下の写真はクロカワゲラ(セッケイカワゲラ)の一種らしい。
北海道から日本海側の積雪がある山間部の谷に棲息しており、翅はないものの谷から尾根に向かって200-300m離れた斜面でも軽快に闊歩する姿は「生きるコトとは?」を考えさせるものがあり、雪虫としての冬の季語にもなる事がよく分かる。
他にもクモガタガガンボやワシグモの一種など、一見しただけでは”死の世界”にすら見える雪上も、実はかなり賑やかなのだ。
なお、同定(※すでに学会等で認められている種名に分類すること)するには図書館で図鑑を開いたり、ネットでの検索でもできるが、例えばワシグモなんて、発見されてる蜘蛛の半分以上がワシグモ科とされていることもあり、当企画の趣旨としては、あまり重要ではないため、「~の一種」と表記していく、と思う。

さて雪解けもだいぶ進んでいる3月末だが、5月の連休までこのルートはトレッキング禁止となっている。その理由は主に鹿の駆除のために地元猟友会が出動するため、としているようだが、実際はルート上の私有地に自生する山菜を採りにくる人が後を絶たず、さらにゴミ・煙草の吸殻の投棄などのマナーの悪さが目立つことで、地元の地権者に良い印象を持たれていないということだ。
それでもルートを整備して受け入れてもらえるのは、実にありがたいことなので、せめて道の駅に寄った時には温泉に入って、山水ののどごしの不思議な日本酒「」を買って帰るくらいのことはさせてもらう。



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