シムライノデ自生地伐採に思う

毎日新聞:絶滅危惧種 シダ植物自生地ほぼ壊滅 公益財団法人が伐採
https://mainichi.jp/articles/20180816/k00/00e/040/244000c

この記事を読んで、すぐに頭に浮かんだのが京都大学のある先生が「林学と森林学は違う」と言っていたことでした。
それを私的な解釈で書き直すと「天然資源としての植物を研究開発し林業に活かしてより人間社会を豊かにするための学問」といってもいい林学に対して、現代人に与えられた課題であるエコシステムの中で人間環境を創造するための知恵を見出すため、あるいは純粋な好奇心に突き動かされて「植物、植物群生そのものを探求する」森林学とは一線を画する、ということです。

今回伐採を行った公益財団法人東京都農林水産振興財団はその名の通り農林水産業の振興を目的としているわけですから、希少植物の保護などはその活動上にないかもしれません。監督するのも農林水産省ですから、自然保護、環境保全に対する認識が生物多様性に関心を寄せる人々と異なることは当然でしょう。
これを縦割り行政の弊害と片付けてしまうと、今後も起こりうる、現在起きているこのような問題に対応していくことはできません。

幸いというか日本は民主主義の先進国ですので、すでにワシントン条約(絶滅の恐れのある野生動植物の種の国際取引に関する条約)に対応する国内法として「種の保存法(絶滅の恐れのある野生動植物の種の保存に関する法律)」があります。
しかしレッドデータブックやレッドリストで絶滅危惧種に指定されても、この法律によって指定種あるいは生息生育地域として指定されなければ適用されず、ザル法ではないかとすら思えます。

また、民間の手によって保護活動を行うために地域を指定し公表すると、希少植物を取引する業者や愛好家による盗掘により、絶滅を早めてしまう可能性も否定できません。このようなケースは実際に私がカイツブリの観察に通う網引湿原一体でも起こっており、自然保護、環境保全とは結局のところは「ひとのあり方」そのものなのです。

自然環境や自然生物に関心が薄い人からすれば、本件のシムライノデの存在は「人間と何の関係があるの?」という程度だと思われますが、そのような人たちに種の多様性という考え方に基づく生態系サービス、エコシステムといった自然の捉え方についてもう少し認知してもらうきっかけにはできると思います。


<参考>
日本のレッドデータ:シムライノデ
http://jpnrdb.com/search.php?mode=map&q=06010250544

静岡県:
http://www.pref.shizuoka.jp/bunka/bk-160/shizen/syokubutu/016_miya.html

花の日記:シムライノデ
http://nannjyamonnjya.blog68.fc2.com/blog-entry-2395.html

公益財団法人東京都農林水産振興財団
http://www.tokyo-aff.or.jp/

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